平「ずっと、エキスポタワーの廃材を使った作品を楽しみにしていました。」
ヤ「そうですか、ありがとう」
平「質問なのですが。
テレビ等で拝見した時、ヤノベさんはタワーの廃材を使用する目的を、“失われた未来の再生”を目指すため、と言っておられましたが、あの作品でそれを達成できたと考えていますか?」
ヤノベ氏は、ポスターにサインをする手を止めてくれた。そして氏はこう答えた。
ヤ「今回の展覧会で、それを完全に達成するつもりだった。しかし実際は、達成できたのは僅か数%。全く満足できていないというのが本音だ」。
ヤノベ氏は、逆に私に質問を投げかけた。
ヤ「エキスポタワーの廃材を使った作品、どうだった?」
私は「あんなものでは満足できるわけが無い!」と言いたかったが、周囲に人も居るので自重することにした。何と言っていいか解らず、首をひねり、「う〜ん・・・」と言葉を濁すほか無かった。
ただこれで、私があの作品への評価が低いのは伝わったようだ。
ヤ「では、タワーの作品だけじゃなく、会場全体の作品を総括的に見て、どう思った?」
平「それは、スゴイと思いました。キリンの時(2002年、「ニュー・デメ」と「スタンダ」が初めて公開された展覧会。戎橋横のキリンプラザ大阪で開催された)も感じましたが、ヤノベさんの作品はインパクトがあります」
ヤ「キリンの時も来てくれてたんか。それは嬉しい!」
これはお世辞ではなく、私はヤノベ氏の作品に、強烈なインパクトを感じているのは事実である。今回の展覧会もそれに対して大いに期待していたからこそ、足を運んだのである。
平「タワーの廃材を使った作品は「ニュー・デメ」と「スタンダ」の間に配置されていましたが、なぜなのでしょう?「ニュー・デメ」と「スタンダ」は全く別のプロジェクトだったはずです。タワーの廃材を使った作品をその間に配置し、2体の動きにリンクさせたのはなぜでしょうか?」
ヤ「それは、この会場でだけの特例と思ってほしい。今回の展覧会は、タワーの廃材を使った作品を中心に、放射状に作品を並べるという配置を考えた。個々の作品では無く、会場全体のデザインを考えた結果、あの配置となった。」
平「エキスポタワーの廃材を使用するのはこれで最後なのでしょうか?あの廃材をリメイクし、新たな作品を作る可能性はあるのでしょうか?」
ヤ「無い。エキスポタワーの廃材を使う作品は、この国立国際美術館でしか展示しない。」
私はその言葉を聞き、ちょっとビックリした。
平「ということは、あのタワーの廃材を使った作品は・・・この展覧会で終わりなのでしょうか。この先ヤノベさんの展覧会が開催された時に、展示されることは無い、ということでしょうか?」
ヤ「無い。ありえない。あの作品は、ここ(万博跡地=国立国際美術館)で公開してこそ意味がある。他の場所での公開は全く考えていない。」
かなり驚いた話だった。
私はあの作品が、ずっとヤノベ氏の作品として残されていくと思っていた。だが、ヤノベ氏はあの作品を残す気は無いらしい。
平「ではあの、エキスポタワーの廃材を使った作品は、今回の展覧会の“メイン”と考えていいのですね?」
ヤ「メイン・・・とは違う。だが、“核”であることは確かだ。」
サイン会なので、後ろにも人が並び始めた。私はここらで切り上げることにして、ヤノベ氏に「解りました、ありがとうございました」というと、氏はサイン書き上げながらこう言った。
ヤ「これからどのような作品が作り上げられて行くのか、どのような妄想都市が出来上がって行くのか、自分でも全く想像がつかない。
ただ、今回の展覧会では、自分の妄想都市の完成形を作るつもりだったが、実際は全く満足できていない。僅か数%だった。それだけは言える。」
サインを書き上げ、ポスターを私に手渡しながら、氏は最後にこんなことを言った。
ヤ「君のように(否定的であっても)、はっきりと意見を言ってくれるのは嬉しい。しっかりと作品を見てくれている証拠だから。」
私はヤノベ氏にもう一度「ありがとうございました」と言って、その場を離れた。
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