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             <特別編>
エキスポタワー
       大阪府吹田市
ヤノベケンジ -MEGALOMANIA-
ヤノベ氏に直撃

8月9日。「タワー・オブ・ライフ」公開から一週間後。
この日、ヤノベケンジ展「MEGALOMANIA」で、あるイベントが行われるとのことで、再び国立国際美術館へと出かけた。
「作者と語る −デモンストレーションを交えて−」
と名づけられたイベント。だが実際は「作者と語る」時間は全く無く、会場の作品群について、ヤノベ氏が淡々と語るというものだった。
しかも、「タワー・オブ・ライフ」にいては。全く解説が無かった・・・。

ヤノベ氏と話がしたい。直接、「タワー・オブ・ライフ」のことを聞きたい。
そう思っていると、少しあとにヤノベ氏のサイン会が開催されるという。
「この時しかない!!」
私はヤノベ氏にサインをしてもらう時、氏に疑問を投げかけてみようと思い立った。

サイン会。人手が手薄になるのを見計らって、私はヤノベ氏に突撃した。以下は、記憶している限りの、ヤノベ氏とのやり取りである。


平「ずっと、エキスポタワーの廃材を使った作品を楽しみにしていました。」

ヤ「そうですか、ありがとう」

平「質問なのですが。
テレビ等で拝見した時、ヤノベさんはタワーの廃材を使用する目的を、“失われた未来の再生”を目指すため、と言っておられましたが、あの作品でそれを達成できたと考えていますか?

ヤノベ氏は、ポスターにサインをする手を止めてくれた。そして氏はこう答えた。

ヤ「今回の展覧会で、それを完全に達成するつもりだった。しかし実際は、達成できたのは僅か数%。全く満足できていないというのが本音だ」。

ヤノベ氏は、逆に私に質問を投げかけた。

ヤ「エキスポタワーの廃材を使った作品、どうだった?」

私は「あんなものでは満足できるわけが無い!」と言いたかったが、周囲に人も居るので自重することにした。何と言っていいか解らず、首をひねり、「う〜ん・・・」と言葉を濁すほか無かった。
ただこれで、私があの作品への評価が低いのは伝わったようだ。

ヤ「では、タワーの作品だけじゃなく、会場全体の作品を総括的に見て、どう思った?」

平「それは、スゴイと思いました。キリンの時(2002年、「ニュー・デメ」と「スタンダ」が初めて公開された展覧会。戎橋横のキリンプラザ大阪で開催された)も感じましたが、ヤノベさんの作品はインパクトがあります」

ヤ「キリンの時も来てくれてたんか。それは嬉しい!」


これはお世辞ではなく、私はヤノベ氏の作品に、強烈なインパクトを感じているのは事実である。今回の展覧会もそれに対して大いに期待していたからこそ、足を運んだのである。

平「タワーの廃材を使った作品は「ニュー・デメ」と「スタンダ」の間に配置されていましたが、なぜなのでしょう?「ニュー・デメ」と「スタンダ」は全く別のプロジェクトだったはずです。タワーの廃材を使った作品をその間に配置し、2体の動きにリンクさせたのはなぜでしょうか?」

ヤ「それは、この会場でだけの特例と思ってほしい。今回の展覧会は、タワーの廃材を使った作品を中心に、放射状に作品を並べるという配置を考えた。個々の作品では無く、会場全体のデザインを考えた結果、あの配置となった。」

平「エキスポタワーの廃材を使用するのはこれで最後なのでしょうか?あの廃材をリメイクし、新たな作品を作る可能性はあるのでしょうか?」

ヤ「無い。エキスポタワーの廃材を使う作品は、この国立国際美術館でしか展示しない。

私はその言葉を聞き、ちょっとビックリした。

平「ということは、あのタワーの廃材を使った作品は・・・この展覧会で終わりなのでしょうか。この先ヤノベさんの展覧会が開催された時に、展示されることは無い、ということでしょうか?」

ヤ「無い。ありえない。あの作品は、ここ(万博跡地=国立国際美術館)で公開してこそ意味がある。他の場所での公開は全く考えていない。」


かなり驚いた話だった。
私はあの作品が、ずっとヤノベ氏の作品として残されていくと思っていた。だが、ヤノベ氏はあの作品を残す気は無いらしい。


平「ではあの、エキスポタワーの廃材を使った作品は、今回の展覧会の“メイン”と考えていいのですね?」

ヤ「メイン・・・とは違う。だが、“核”であることは確かだ。」

サイン会なので、後ろにも人が並び始めた。私はここらで切り上げることにして、ヤノベ氏に「解りました、ありがとうございました」というと、氏はサイン書き上げながらこう言った。

ヤ「これからどのような作品が作り上げられて行くのか、どのような妄想都市が出来上がって行くのか、自分でも全く想像がつかない。
ただ、今回の展覧会では、自分の妄想都市の完成形を作るつもりだったが、実際は全く満足できていない。僅か数%だった。それだけは言える。」

サインを書き上げ、ポスターを私に手渡しながら、氏は最後にこんなことを言った。

ヤ「君のように(否定的であっても)、はっきりと意見を言ってくれるのは嬉しい。しっかりと作品を見てくれている証拠だから。」

私はヤノベ氏にもう一度「ありがとうございました」と言って、その場を離れた。

ヤノベ氏と話してみて、「なるほど」である。

なぜ、あの作品から「魂」が感じ取れなかったのか、氏と話したあとなら納得できる。

ヤノベ氏の現時点での代表作はやはり「ニュー・デメ」と「スタンダ」だろうが、私は今回はそれに変わる、ヤノベ氏の一大作品が製作されると思っていた。だって、「エキスポタワーの廃材を使った作品」だぞ。話題性も充分だ。
ところが氏にとっては、この作品展「MEGALOMANIA」のみの、僅か一ヶ月しか展示されない作品であったのだ。それに、タワー解体からの時間を考えると、製作期間は僅か数ヶ月。ありあわせで作った・・・と感じるのは至極当然かも知れない。

ずっと期待していた、タワーの廃材を使った作品。こんな煮え切らない気持ちになってしまったのは、本当に残念だ。

私はヤノベ氏の作品に対し、大きな嫌悪感は無い。むしろ、氏の持つ独特の発想は高く評価している。それだけに、本当に期待していたのだが・・・。
しかし今回、ヤノベ氏と直接に話をすることができ、自分の作品に対する観覧者の意見・批評などを真摯に受け止める姿勢を感じた。そして同時に、自分の作品に対する貪欲さのようなものを感じ取ることができた。


今回の“タワー・オブ・ライフ”は、決して満足できるものではなかった。
だが、これからヤノベ氏が、どんな作品を作り上げていくのか、まだまだ注目していきたいと思う。