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その2

より安全な神事を目指して

◆本殿での神主“流血事件”

 平成21年の開門神事でで、ゴール直後に2つのトラブルがあった。ひとつは福男の順番の入れ替わり、そしてもうひとつは、参加者を受け止める役だった神主の“流血事件”である。


「神主流血」を報道した新聞

 神主(正確には「神職」だが、ここではこの表現を使う)は本殿へ駆けてきた参加者を抱き止める役だった。上位3人の「福男」と、後続の参加者とがゴチャゴチャにならぬよう、福男を捕まえて安全な場所に回避するのである。しかしこの年、神主の一人が、参加者を抱き止めた後に転倒。額に数針を縫う裂傷を負った。そして直後には、当初の発表が訂正され、福男の順番が入れ替わるというトラブルも発生した。

 これらのトラブルは、なぜ起こったのだろうか?

 現場にいた、神社関係者の一人が証言した。福男の順番が入れ替わったことに関して、

 「ゴール直後はマスコミのカメラが殺到しており、誰が誰だかわからない状態。あの(福男の順番が入れ替わる)混乱は、起こるべくして起こった」

 さらに神主の負傷については、

 「神主は福男を捕まえたあと、逃げ場が無かったんです。先頭の参加者が本殿に入ってくると報道陣のカメラが一気に近づいてくる。神主は行き場を失くして後ろに倒れた形でした」

 それだけが全てではないかもしれない。しかし、殺到したマスコミのカメラが、今回の福男の順番の混乱、そして“流血事件”の原因の一端だったことは間違いないようだ。

 またこのあと、動けなくなっている神主と福男、それを取り囲むカメラに、続々と本殿に入ってくる参加者で押すな押すなの状態に。一歩間違えば大きな事故にもつながりかねない場面だった。


本殿は非常に危険な状態になった

◆本殿での撮影に規制

 私がずっと論じているのは「開門神事は、マスコミによって成長してきた祭り」ということだ。テレビや新聞で大きく報道されるたびに知名度は上がり、参加者は増加してきた。それはそれで喜ばしいことだと思う。だが近年は、逆にマスコミによって神事に不利益をもたらす場面も見られるようになった。

 もちろん、ほとんどのマスコミは熱心に、真剣に神事を取材してくれている。今回の“流血事件”だって、一番福となった人物の表情をいち早くカメラでとらえたい、という姿勢の表れだろう。それでも今回、負傷者が出たならば、二度とこのような事が起こらぬように安全策を考えなければならない。


この状態では…トラブルは起こるべくして起こった

 神社側と話し合った結果、今回から本殿でのカメラ撮影は、指定された場所でしか許可しないことになった。具体的には、本殿の左右にテープ等で線を引き、そこから前には絶対に出ないようにお願いする。これで本殿の中央部分には、福男を抱きとめる3人の神主以外はいなくなる。安全を確保すると同時に、ゴールしてくる福男の順番を判定しやすくなる。平成21年のような混乱を防止することにもなる。

 

◆誰もが安全に参加できる神事に


  今回は本殿以外でも、数々の安全対策を行っている。例年はケガ人発生に備え、開門直前から医者に待機してもらっている。ところが前回の神事前、門前で待機していた参加者に急病人が発生した。このような事態に対応するために、さらに早い時間から医者に来てもらう。

 開門時の参加者の列も、今までは門前の「Aブロック」、その後の「Bブロック」、一般参加者の「Cブロック」の3つに分割していた。しかし、転倒する者は、全力疾走したい者と一般参加者が混在する「Cブロック」の先頭部に多いという指摘があった。このため今回から、試験的にもうひとつ「Dブロック」を設定する。現地では係員の指示に従って欲しい。

 もしあなたが参加者で、何かの場面で危険を感じたならば…それを是非とも伝えて欲しい。全てに応えることはできなくとも、その意見を吸い上げ、今後の対策に生かすことができるはずだ。

 ◇    ◇

 多数の人が一斉に走り出す開門神事。転倒者や負傷者をゼロにすることは不可能に近い。しかし今後も、ゼロに限りなく近づける努力を続けていく。もしそれが、開門神事の魅力を削ってしまうことになっても、だ。

 血気盛んな福男狙いの若者も、小さな赤ん坊を抱いたお母さんも、杖をついたご老人も、体のどこかにハンディキャップを持っている人も…いつか全ての人が、安心して参加できる神事を目指したい。そして全ての人に、一年間の「福」を持って帰ってもらいたい。

 今は「夢物語」かもしれない。でも…いつか、そんな時が来ることを信じて。