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平成26年(2014年)
 「開門神事福男選び」

 

 例年通り、クジ引きの受付は9日午後10時から先着1500人である。しかしこの年は例年にも増して参加者が多く、受付には長蛇の列ができた。神事がテレビなどで大きく取り上げられ有名になったのはいいことだが「神事に参加する」という心構えが明らかにできていない者も見受けられた。テレビ番組の企画で来ていた外国人集団もいたが、参加心得書の署名すらできていなかった(つまり全く書面を読んでいなかった)。

 参加心得書はその名の通り、神事に参加する心得を記したもの。だが近年は形骸化し、ただの「整理券」のような扱いになっているのも事実。内容等を見直す時期にきているのかもしれない。


クジ引き参加受付に集まった参加者

 東日本大震災後に販売しているチャリティーグッズに、この年「福男法被(はっぴ)こけし人形」が加わった。東北の名産品であるこけしに、黄色い福男法被を模したシールを着せる(貼り付ける)ことで完成するという、遊び心もある一品だ。


新発売となった「福男法被こけし人形」

 我々開門神事講社は「神事を安全・円滑に運営する」ことが第一の仕事、大前提。しかしそれが全てであるとは思っていない。できる範囲で、被災地への支援は続けていきたいと考えている。

 

 

開門直後
一斉に駆け出す参加者たち。向かって右側の参加者が倒れて将棋倒しに!心配されたが大きな怪我はなかった。

 

第一ストレート
お馴染みになりつつある、東日本大震災の被災地へエールを送る「黄色い手袋」を今の年も参加者に配布した。

 

福男道を抜ける先頭集団

 

 

やったぞ一番福!
先頭で本殿に駆け込んだ参加者を神職が受け止める。この瞬間が「ロマンスを感じる」とネットの一部で話題になっているらしい…。

 

今年の福男が決定!
左から二番福・畑中くん、一番福・京田くん、三番福・岸本くん。

 

福男3人による鏡割り
掛け声とともに酒が飛び散り、参拝客からは歓声が上がる。

 

 この年の福男は全員が大学生だった。


テレビ局のインタビューを受ける3人

 大学で野球部の一番福・京田くんは福島・聖光学園出身で甲子園出場経験もあり、各新聞には「元甲子園球児が福男」の見出しが躍った。また一部スポーツ紙では、米大リーグに挑戦することになった田中将大選手と同じ少年野球チーム出身ということを知り大きく扱っていた。


開門神事を大きく報じるスポーツ紙

 東日本大震災発生時、福島で練習中だったという京田くんは「東北にも元気を届けられれば」とコメント。例年、参加者の質の低下に頭を悩ませているが、やはり福男に選ばれるのは称号に相応しい人物なのだ。

 

 そして、この年は神事終了後に大きな仕事が待っていた。3月15日、宮城県女川町の祭り「復幸祭」の一環として行われる「復幸男選び」(正式名称:津波伝承・女川復幸男)の手伝いである。


津波で大きな被害を受けた女川

 「復幸男選び」は、坂の下から高台に建立されている「いのちの石碑」まで競走。上位3人までが「復幸男」として認定される…というものだ。言うまでもなく、開門神事「福男選び」がモチーフになっている。そのイベントが西宮神社の公認となり、協力させてもらうことになったのだ。

 開門神事が全国的に有名になり、各地で模倣のイベントが多数行われている。学祭の一環だったり、遊園地の催しだったり、興業に組み込んでいるプロレス団体もある。そんな中で「復幸男選び」だけが“本家公認”となったのは、女川の人たちが実際に神社に訪れ、誠意を示していただけたからに他ならない。


「復幸男選び」への支援を報じた新聞

 各地の模倣イベントの多くは、ぶっちゃけただ“遊び”を勝手にやっているだけ。西宮神社に許可をもらっているけではないし、当然ながら神事へのリスペクトなど皆無である。そんな中、2013年夏に女川観光協会の方が神社を訪問。直接、神事をヒントにしたイベントの開催を伝えに来てくれたのだった。

 福男選びを運営する「開門神事講社」は、東日本大震災後にチャリティーグッズを販売するなど、微力ながらも被災地支援を行ってきた。当初は副賞として木彫りのえべっさん像を提供するだけの予定だったが「どうせなら現地に行かせてください」と神社に直訴し、被災地訪問が実現した。


現地で被害の大きさを思い知らされた

 私自身、実際に被災地へ足を踏み入れたのは震災後初めてのことだった。あれから3年が経っているにも関わらず、かつて家が立ち並んでいたであろう場所は更地のまま、そして各所には慰霊の花束が置かれていた。この場所では軽々しく「頑張ってください」だの「西宮から福をもってきました」なんて言葉は言えないと思った。しかし、女川の人たちは温かかった。そしてこう言った。

 「女川は津波で大きな被害を受けました。多くの住民が亡くなりました。それでも女川にとって、海は誇りなんです。これからも海とともに生きていきます。

 家は流されたとしてもまた作り直せる。大切なのは命を守ること。津波に備えて大きな防波堤を作るのじゃなく、高台に逃げるということを伝えていきます」

 その思いを形にしたのが「復幸男選び」。ただのイベントではなく、津波からの避難訓練も兼ねているのだ。


「復幸男選び」ではスタートの号令を担当した

 私は開門神事の際に開門を担当していることもあり、「復幸男」のスタートを任せられた。その号令は「逃げろー!」である。恐らく参加者の多くは神事はテレビでチラッと見たことがある程度だろう。遠く離れた被災地で、神事が復興への力になっているのだ。涙が出るほど嬉しかった。


プレゼンターとして参加してくれた岸本くん、畑中くん

 また、女川には二番福・畑中悠志くん、三番福・岸本貴文くんが同行。堂々とプレゼンターを務めてくれた。一番福・京田世紀くんは所用のため参加できなかったが、現地で配った福男新報特別版にメッセージを寄せてくれた。

 また、東日本大震災後に神事で参加者に配っている黄色い手袋を「復幸男選び」でも着用していただけることに。当初は被災地へのエールを込めたものだったが、西宮と被災地をつなぐシンボルとなってくれた。


「復幸男選び」で駆け出す参加者たち

 そして今後につながる話も。見事に「復幸男選び」2連覇を果たした鈴木大さんに神事への協力をオファーしたところ、ぜひ門押さえ役をやりたい、と言ってくださった。実現すれば、今度は本家・開門神事の地で「福男」と「復幸男」のコラボが実現する。色々と制約もあるだろうが、何かできる限りのコトをやりたいと思う。

 

平成26年 福男選び結果
一番福
京田 世紀 (きょうだ せいき)
二番福

畑中 悠志 (はたなか ゆうし)

三番福
岸本 貴文(きしもと たかふみ)

 

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