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平成20年(2008年)
 「開門神事福男選び」

 

 過熱する一方の開門神事「福男選び」。運営上の最大の問題のひとつに、クジ引き希望の参加者が増えすぎているということがあった。とはいえ、この年の神事は平日で、前年度の800人から減ることはあっても、増えることはないと楽観的に考えていた。しかし…。クジ引きに並んだ参加者は何と1500人。参加者待機用のスペースが足りず、急きょ本殿側にも並んでもらうことになった。


クジ引きに並ぶ参加者。1500人を超えた

 こうなってしまった理由は色々と考えられるが、とにもかくにも当日はクジ引きをこなすことに必死で、何とか無事に終わった時にはヘトヘト状態…少なくとも同じシステムを来年以降も続けるのは不可能だ。今回の開門を前に、早くも来年の神事の不安を感じてしまったのだった…。

 過熱の一途をたどるのは、参加者に限ったことではない。この年も各メディアが集結。境内には多くのテレビカメラが並んだ。


「審判の楠」あたりの沿道はこの状態

 テレビ局は一社につき数台のカメラを持ち込み、各所に設置。ちょっと異常ともいえる雰囲気であった。神事を取り上げてもらえるのはありがたいが、やはり中には、神事の報道とは思えぬ扱いをする局もあり…。各メディアには、今後も理解を求めていかねばなるまい。

 

 

開門直後
参加者が境内になだれ込む!中央が好スタートも、向かって左側の栄くんが加速。

 

ダッシュする参加者たち
別角度から。全てが解き放たれる瞬間だ。

 

第一ストレートでスピードに乗った栄くんが先頭に!

 

栄くん、スムーズに「天秤カーブ」通過

 

第二コーナー、吉田が先頭の栄くんに迫る!

 

栄くん逃げ切った!歓喜の一番福

 

ホッとした表情の一番福・栄くん

 

本年度の福男が決定!
左から二番福・吉田、一番福・栄くん、三番福・奥野くん

 

福男3人による鏡割り
「福男」としての最初の仕事は、大歓声の中で行われる

 

 

 “走り参り”の興奮冷めやらぬ本殿の壇上に、今年の福男の面々が現れた。その中心には栄くんがいた。その姿を見て胸が熱くなった。他の参加者には悪いが、今回、あの門の集った人々の中で、彼が誰よりも“一番福になるべき男”だったと断言する。その彼が実際に一番福となった―――私は、今までこの神事を通じて何度も感じた「えべっさんの祝福」を信じずにはいられなかった。

 なぜ、彼が一番福になるに相応しい男だったのか。その理由は2つある。

 

酒樽を持ち上げ笑顔の栄くん

1、騒動の年の二番福

 まず、彼があの2004年「福男騒動」の時の、二番福であったこと。

 この年の開門時に、一番福になった消防士のグループによる“妨害行為”があったとして大騒動に。その後、その消防士は一番福を返上する事態となった…とはいっても、これは神事でスポーツ競技ではない。一番福が返上されたからといって、二番福が繰り上がることはない。

 開門時にあのような不利を受けたにも関わらず、トップの消防士のすぐ後ろまで迫った二番福…それが彼、栄くんだった。本当ならば自分が一番福だったかも…さぞかし悔しかったに違いない。しかし栄くんはこの時、こんな言葉を残している。

 「正々堂々と走り勝ってこそ、真の福男。来年は1番でゴールしたい」

 彼は恨み言をウダウダ並べることはせず、ただ「誰にも文句を言わせない福男」を目指した。本当にまっすぐな心を持った青年である。だが皮肉にも次の年から、開門時の事故防止策としてクジ引き制度が導入された。それ以降、クジ引きで当たりを引くことができず、なかなか“一番福へのスタートライン”にも立てないでいた。今回、見事に当たりクジを引き当て、チャンスをモノにした栄くん。まさに有言実行で「真の福男」となった。

 開門神事の歴史において、最悪の出来事だった2004年の騒動。騒ぎは終息したが、そこに足りなかった“最後の1ピース”がはめられた瞬間だった。

2、「地元出身」の福男

 栄くんは地元・西宮の出身。自宅も、西宮神社から歩いて行ける距離ににあるほどの“西宮っ子”である。だからどうした…と言われそうだが、これはとても重要なことだ。

 かつての「福男選び」は、ごくごく小さな、西宮神社の門前町の神事だった。福男は、地元の祭りの主役、そんな扱いだった。ちなみに、かつて何度も福男に輝き「ミスター福男」と呼ばれた善斉さんも西宮出身である。…それが交通の発達や各メディアへの露出により、全国から参加者が集うように。

 他の地域からは来るな、と言っているのではない。遠方からわざわざ来て、神事に参加してくれる人たちはありがたいと思う。ただ、地元の祭りであったはずの開門神事を、スポーツ競技と同じように考えている参加者も多い。開門神事とはどんなものなのか、さらには西宮神社にはどんな神様が祀られているのかさえ知らず、ただ面白そう、目立ちたい、テレビに映りたいという理由だけで参加する輩も増えている。

 一番福になったあと、栄くんは言った。「子どものころからの夢がかなった」。この発言にはネット上で「え〜!そんなバカな」的な声も上がったようだが、ずっと住んでいる街の、伝統的な祭りの主役になったと考えば納得がいくのではないか。逆にいうと、この感覚が分からないようなら、この神事に参加して欲しくないと思う。

 

 栄くんが一番福になったこと…それは偶然ではない。えべっさんの大いなる導きがあったのだ。

 

吉田は二番福にも、心の中は晴れていた

 二番福は吉田だった。

 彼の福男への執念はハンパではない。福男になるためのトレーニングを積み、毎年のように神事に参加し、福男のブログを立ち上げ…、単純に「一番福になりたい」という思いなら、栄くんよりも上だったかもしれない。また彼は生粋のスプリンターで、スプリント能力はすこぶる高い。VTRを見ると、開門直後から他の参加者を引き離していく栄くんに、最後は際どく迫っている。一番福に届かず、きっと悔しがってるだろうな…と思ったら、本人は意外とサバサバ。

 「栄くんに最高の走りをされた。俺もいい走りをして追い上げたけれど、栄くんにはそれ以上の走りをされた」

 吉田は、2004年の開門時の妨害行為に、最も被害を被った一人である。だからこそ栄くんの悔しさも知っている。「彼が勝って本当に良かったよ」。そう言って吉田は笑った。まっすぐな気持ちで参加しているからこそ感じるカタルシス。力を出し切ったあとの、爽やかな表情が印象的だった。

 

焼鯛を受け取る奥野くん

 三番福は奥野くん。

 昨年の二番福に続いての連続福男。クジ引きが導入されて以降、スタート位置で最前のブロックに入ることさえ難しくなっている。そんな中、これは本当に凄いことだと思う。


 例年にも増して、課題の残った開門神事だった。増え続ける参加者、開門時の安全確保、過熱していくマスコミ…、さらに、ここでは詳しく書けないが、今回の開門神事があわや中止という大事件も起こった。これは誇張ではなく、もう少しで、午前6時に門が開かなかったかもしれなかったのだ。

 次回、平成21年度の開門神事は週末と重なり、さらに参加者が増加する恐れがある。これから「福男選び」はどうなっていくのか…。不安は尽きないが、立ち向かっていくしかない。

 

 

平成20年 福男選び結果
一番福
栄 悠樹  (さかえ ゆうき)
二番福
吉田 光一郎 (よしだ こういちろう)
三番福
奥野 始 (おくの はじめ)

 

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