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平成13年(2001年)
 「開門神事福男選び」

 

この年、まだ入院中だった私は、周囲の反対を押し切るような形で「外出許可」を取り、門前に駆けつけた。何がなんでも、もういちどあの門の前へ。それがその時の私の目標だった。

正直…初めは走るつもりだった。今から考えるとバカとしか言いようがないが、あの状態で走れば、恐らくただでは済まなかっただろう。友人達の説得で思いとどまり、私は友人に付き添われて、後ろから松葉杖で歩くことにした。

私のことを心から心配し、気遣ってくれた友人たち…。本当に感謝です。

 

 

スタートを正面から
左端に善斉さん(青タイツ)、右側に中村くん(オレンジズボン)、その後ろに島屋くん(灰色トレーナー)。例年では、ここまで門が開いているのなら、数人が飛び出しているシーンだ。この年、前列の参加者のスタートダッシュが遅れてしまっているのだ(詳細は後述)。

 

「審判の楠」付近。善斉さんが独走!

お見事、4年ぶりの一番福

左から一番福・善斉さん、二番福・島屋くん、三番福・中村くん

 

 

初めて“勝利”を目指さずに参加した福男選び。だがこの時、私はこの神事の本当の素晴らしさを体感することになる。開門前の緊張感、太鼓の音が聞こえた時の高揚感、そして参道を進む時の神々しさ…。今まで一番になれなきゃ意味ない、と思っていた。でも違うんだ。「福男選び」の本質は別次元のところにあるんだ。

そして私に、大きな大きなプレゼントが舞い込んだ。
私がゆっくりと本殿を目指している時である。昨年の一番福にも関わらず、この年は私の“付き添い”という形で参加してくれた吉田光一郎が、ひとあし先に、結果を知り、それを知らせに走ってきたのだ。

「善斉さんが勝った!」

その時の驚きと感動を、今も忘れることができない。私がこの神事に参加するきっかけを作ってくれ、今回で引退を決意していた善斉さん。勝って欲しい、そう心から思っていた人が、本当に勝った―。

 

「福男選びでは何かが起こる」
参加してきた私が、身をもって体感してきたことである。時として「そんなバカなと思えるようなコトが、当たり前のように起きてしまうのだ。

そして平成13年度、この時ほど「えべっさん」の存在を感じた時は無かった。
この年、見事に一番福に輝いた善斉さんは、スタート前から2つの不利を抱えていた。

1.走力の衰え

消防士という職に就き、訓練で体を鍛えてはいたものの、この1年間「速く走る」練習はほとんどしていなかった。この時の参加者達で、直線を「よーいドン」で競争すれば、善斉さんよりずっと速い人は沢山いたはずだ。

2.スタート位置

善斉さんが門前に来たのは夕方になってから。既にかなりの参加者が集まっており、善斉さんのスタート位置は門に向かって一番右。門は観音開きなので、「門が完全に開かないと走り出せない」場所である。

本人は当初、参加を見送るはずだったが、周囲の人達に後押しされる形で参加。過去に何度も福男になった善斉さんだったが、今回はさすがに無理だろう。善斉さん本人も、周囲の参加者もそういう雰囲気であった。

ところが、である。奇跡が起こった。勝てるはずの無かった善斉さんが、ぶっちぎりで一番福に輝いたのである。さすがにこれには驚いた。ホントかよ、というのが正直な感想。
だが…あとから映像を見ると、「なぜ善斉さんが勝ったのか」ということを理解できた。この年の善斉さん一番福には、大きな3つの要因が重なり合った上での出来事だったのだ。

<第1の要因・他の参加者のスタート遅れ>

今回、最も早く門前に来ていたのは、東京出身の大学生。当然、その人がド真ん中…ポールポジションからスタートしている。だがこの人、走ることに関しては全くの素人、福男選びに参加するのも初めて、という人である。門が開いた瞬間…おそらくあまりの緊張で頭が真っ白になったのだろう、足が前に出ず、一瞬止まってしまう形になった。これにより中央付近の参加者はダッシュがつかず、ワンテンポ遅れてのスタートになってしまった。
そしてこの影響を全く受けなかったのが善斉さんだ。右端から出て、さらに一度、参道から外れるぐらいに右側に膨らんでいる。これにより、善斉さんは右端にも関わらず、スタートの一歩目から他の参加者の前に出ることができた。

開門直後。一番端からのスタートだったにも関わらず、この時点で既に善斉さん(左端)は先頭に立っている

とは言っても、だ。たとえスタートでリードしても、走力の差があれば追いつかれてしまう。だがこの直後、善斉さんにさらなる追い風が吹く。

<第2の要因・天秤カーブ>

私が「福男選び」のコースの中でも、最も難関としている第一カーブ=天秤カーブ。ただの、曲がり角じゃねーか、と思う人も多いだろうが、門から加速した参加者がトップスピードに乗る距離にある直角カーブのため、毎年ここで脱落者が続出する。この名は「えびす様が参加者を天秤にかける」ことから呼ばれるようになったのだが、この年はその“天秤”ぶりが恐ろしいほどに発揮された。

右側から出て、最短コースでカーブを抜ける善斉さん。そのあとを追ってくる参加者…。しかし、スピードを落とさずに曲がりきったのは善斉さんただ1人。追撃する第2グループの参加者は全て…恐らく予想以上のカーブに驚いたのだろう、かなりの減速を強いられることになっている。さらにそれを追う第3グループに至っては、こぞって曲がり切れずに屋台に激突→転倒、完全に脱落してしまった。

「天秤カーブ」。善斉さんはインからアウトへ、スムーズに駆け抜けている。だが後続の参加者はバランスを崩し、減速を強いられている

 

<第3の要因・経験>

この時点で、善斉さんは独走状態になった。そしてここから、善斉さんは神がかり的な走りを見せる。VTRを見た時、本当に驚いた。
全く無駄がない。コースの取り方、カーブでの減速→加速、芸術的な走りである。ダントツで本殿へと駆け込んだ。その姿は、本当にえべっさんに祝福されるかのごとくであった。

 

客観的に見て「勝てるはずの無かった」善斉さんが勝った。だれが何と言おうと私は断言しよう。これは今まで何度も参加し、今回で引退を決めていた善斉さんへ、えべっさんがプレゼントした一番福だ。

えべっさんは「ミスター福男」に、ニッコリと微笑んだのである。

 

まさに「ミスター福男」の称号に相応しい人だ

 

平成13年度福男選び結果
一番福
善斉 健二 (ぜんさい けんじ)
二番福
島屋 昌芳 (しまや まさよし)
三番福
中村 昌泰 (なかむら まさひろ)

 

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