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平成11年(1999年)
 「開門神事福男選び」

 

雪辱に燃える私は、この年も門前に一番乗り。門のど真ん中を確保した。
もう負ける負けるにはいかない!

昨年、圧倒的な実力で初参加・一番福をもぎ取った吉田。この年の「福男選び」も、当然吉田を中心にレースが動く。そう、誰もが予想した。

ところが、その吉田はなんと不参加。神社に来るには来たが、走る事は出来ないらしい。宗教的な理由からだという。
その代わりに参加してきたのが、吉田と同じ大学の相馬。数々の実績を誇るスプリンターだ。

この年の参加者は、過去最高を記録した昨年よりもさらに多い2000人に上った。

 

門横で記念撮影

月9日中は終日、 十日えびすの初日「宵えびす」が行われている。そのため参加者は門が閉じるまでは門の横で待つことになる。

ここに集う人たちは福男の称号をを奪い合う「敵」である以前に、共に時間を過ごす「仲間」であることを忘れないで欲しい。

門の横で記念撮影。善斉さんを中心に、平尾、チム、相馬、荒川さんの姿も。

 

開門を待つ人々

開門が近づくと全員が立ち、静かに開門を待つことになる。

この時、撮影のためにテレビカメラなどが向くと騒然となり、押し合いが始まってしまう。

あまりに押したりするととても危険なので、カメラが来ても冷静になろう。

 

開門の瞬間

午前6時。
「かいもーん」の声とともに、一気に門が開け放たれる。門前で待ちつづけた「静」から、全ての力を出しきる「動」へ。福男選びで最もボルテージの上がる瞬間だ。

あたりはカメラのフラッシュの光に包まれる。この瞬間に魅入られ、参加し続ける人も多い。

私はこの年、絶好の位置から、これ以上無いスタートダッシュを決めた。

 

スタート直後
この時、私がどれほどいいスタートを切ったかが解ると思う。私はこの2年間の悔しさを晴らすべく、一心不乱に走った。このあと、あんな「落とし穴」が待ちうけているとは知らずに・・・。

 

 

スタート直後
二位以下に10メートル以上の差をつけ、私はほぼ一番福を手中にしたと思われた。
ところが・・・私は本殿前の最後のカーブで足を滑らせ、転倒してしまったのである…。

「何故勝てないのだ…!」私はわけも解らず、その場に座り込んで泣き伏した。人から見ればいい「笑い者」だったろう…。

 

 

ゴール前で転倒という、何とも言いがたい結末に終わった、平成11年福男選び。ここに、私がこの日に帰宅し、すぐに書いた「手記」がある。当時、その時の思いをぶつけるかのように一気に書き上げたものです。

その文をほぼ原文のままに、ここに掲載します。その時の私の思いを少しでも感じてくれたら幸いです。

平成11年1月10日 西宮神社開門神事福男選び

私は完全なポール・ポジション。大喜田(昨年3番福)は来ず、 吉田・森本さんはゲストとしてゴールで待つ。善斉さん・相馬はスタート位置が悪い。

チャンスだ。

今回勝てなかったら、一生勝てない」。

自分に言い聞かせる。 開門15分前。門の内側から、吉田・森本さんに、
「平尾、がんばれよ」
と声をかけてもらう。 横の荒川くんには、
「一番福になったら胴上げしますよ」
と言われる。
もう、後戻りはできない。あとは、爆走するだけ!

太鼓のの音。開門!! 目の前が一気に開(ひら)ける。
トップだ!
カーブを曲がり、長い直線。ここで、走力の差が出る。
来るな、誰も来るな!!
しかし、第2コーナーを曲がった時でも、足音さえ聞こえない。やった!

俺が一番福だ!

そう思った瞬間、体が宙に舞った。
何が起こったのか解らなかった。
はっ、と顔を上げた時、私の横を誰かが走ってゆき、本殿に駆け込むのが見えた。
私は泣いた。その場から、動けなかった。
なぜ、こうなってしまったのだろう。なぜ、私は勝てないのだろう。たくさんの「なぜ」が一気に爆発した。
あれほど燃えていたのに。
この一年間、何度も夢を見た。寝れない夜もあった。その結果がこれだとは。
私の横を、たくさんの人が駆け抜けていった。

誰かが私を助け起こした。森本さんだった。 森本さんは、
「お前はようやった」
と言って、胸を貸してくれた。
私はその胸で、大声をあげて泣いた。
22歳になっても、人前でも、本当に悔しい時は人間はこういうふうになるのか、と思った。

一番福、相馬。二番福、善斉さん。三番福は知らない人。
私が立っていたはずの本殿上で、表彰式が行なわれていた。
その間中、涙は止まらなかった。
善斉さんは鏡開きの時、横に来い、と言ってくれた。
そして私のコップに、ゆっくりと酒をついでくれた。
「俺は三番福。相馬は二番福。
 本当の一番福はお前やと、俺は思ってる。」
と言ってくれた。

一番福は取れなかった。 しかし、今回の福男選びで心から思った。

福男選びに参加してきて、本当に良かった」。

 

平成11年度福男選び結果
一番福
相馬 聡 (そうま さとし)
二番福
善斉 健二 (ぜんさい けんじ)
三番福
常松 治郎 (つねまつ じろう)

 

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