▲TOPページへ

その2

チャリティー根付と黄色い手袋

◆今度は私たちの番

 私は今回の開門神事は、例年とは重要度が違うと考えている。その理由は簡単…「東日本大震災後初めての開門神事」だからだ。

 被害の中心は東北地方。西宮の神事は何も関係ないと思う人もいるだろう。だが、関西は17年前の阪神・淡路大震災で大きな被害を受けた地域。西宮神社も例外ではない。震災1年後に、例年通りに開門神事が行われたのは、各方面からの支援があってこそだった。

 復興した被災地から、復興を願って被災地へ。「今度は私たちの番」である。

 では、何ができるのか。全国的に知名度の高い「開門神事」を通じ、支援の思いを届けることはできないか…伝統的な神事の中で、何かを変えていくことは勇気がいることだった。そして今回、ささやかながら2つのことを行うことになった。
 

1、「チャリティー根付」の販売


販売されるチャリティー根付

 十日えびすの期間中、赤門前などでチャリティー根付(携帯ストラップ)を販売する。1個500円で1000個限定。完売次第で販売終了する。収益は全額、被災地へ送る。

 デザイン原案は開門神事講社の講長である私・平尾が担当させてもらった。「福男選び」スタート地点の赤門をイメージしたデザインに「一番福」の文字を入れた。この「一番福」は、福男選びで与えられる称号のことではなく、西宮神社においての「最高の福」という意味を込めた。また、赤門のイラストに、ワンポイントで福男のイメージカラーである黄色を配した。

 裏面には「開門神事福男選び」の文字の下に「がんばろう日本」の文字を入れた。震災後、数え切れないほど使われてきた言葉だが、チャリティーであるならばこの言葉は絶対に入れたいと思った。実は当初、裏面には「西宮神社」や「開門神事講社」と入れる予定だったが、それらを消してまで、この言葉にこだわった。

 このチャリティー根付は、福男へ贈られる黄色いハッピや、参拝者に無料で配られる「開門神事参拝之証」を除けば、開門神事の“初めての公式グッズ”となる。近年は神事の知名度の高まりから、参拝者から福男選びのグッズはないのか、と訊ねられることも多かった。業者側からグッズの製作を持ち掛けられたりもした。だが「開門神事講社」は営利団体ではないので、何かを販売して利益を出すのは望ましくない。

 そして今回の東日本大震災。もしも開門神事のグッズを作るなら、このタイミングしかないと思った、今動かないといつ動く…そんな使命感があった。そして色んな“縁”が重なって、今回のチャリティー根付が完成した。

 ただ、今回はチャリティーという前提があってのこと。西宮神社の吉井良昭宮司からも「チャリティーならばいいが、恒常的にグッズを制作して講社の運営費とするならば問題」とクギを刺されている。復興には長い時間を要するのは確実だが、来年以降、こういったグッズを製作するかどうかは、状況を確認しながら、ということになる。当然、これが最初で最後のグッズ制作になることも考えられる。

 

2、黄色の手袋でエールを


黄色い手袋に復興の思いを込めて

 今や開門神事の知名度は全国区。開門時の写真はは各新聞に大きく掲載され、映像はニュース番組などで日本全国で流される。もちろん、被災地の方々も目にするだろう。ならば開門神事を通じて、何らかのエールを送れないだろうか?神事そのものに影響がないように、ひと目で“例年とは違う”ことを伝えることはできないだろうか?

 そこで考えたのが「揃いのカラー手袋」だ。数千人という全ての参加者には無理だが、開門と同時に走り出すブロックの人数分なら用意できる。伝統ある神事で、復興への願いを込めた手袋をした人たちが一斉に走りだす。その光景は、きっと“メッセージ”となるはずだ。 

 「色」については考えるまでもない。福男のイメージカラーである黄色だ。数年前までは特に決まりはなかったが、福男に黄色いハッピを贈られるようになってから、福男の色=黄色として定着しつつある。

 チャリティー根付とは違い、これは開門神事の「絵」を変えてしまうもの。思いだけでは突っ走れない。そこで真っ先にこの話を、吉井良昭宮司に伝えることにした。そして返ってきた言葉は「いいアイデアだと思います。ぜひ進めてください」。神社の最高責任者から“お墨付き”をもらうことができた。

 年末年始をはさんだため手袋の調達に予想以上に苦戦したが、どうやら間に合いそうだ。

 神事当日、開門と同時にスタートするAブロック108人と、Bブロック150人、計258人に呼びかけて賛同してくれた人に、黄色い手袋を渡す。もちろん強要ではない。個人の思想や宗教的な制約など、様々な理由で着用したくない、できないという人もいるかもしれない。しかしやはり、1月10日午前6時、ガーン!と開門した瞬間、飛び出した全ての参加者の手に、黄色い手袋が着用されているのが理想だ。

 関西からほんの少しでも被災地に思いを届けたい。きっと参加者の皆さんも同じ気持ちを持っているはず。この黄色い手袋が参加者の心をひとつにして、それを実現してくれると信じている。

 

◇      ◇

 根付の販売で「お金」を、黄色い手袋で「思い」を。

 今回の開門神事を通して、少しでも被災地へ「福」を届けられたらと思います。どうぞ、ご協力をよろしくお願いします。

平成24年 1月7日
開門神事講社 講長
平尾 亮