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その2

クジ引きシステム導入の明と暗

◆なぜクジ引きが導入されたのか

 2005年から開門時のスタート位置をブロック分けし、最前ブロックからスタートする参加者を決める「クジ引き」を導入している。このクジ引き、各メディアで報道される時は必ず、いわゆる「福男騒動」と絡めて紹介される。「2004年に妨害行為があったので、それを防止するため」に導入されたのだ…と。しかし実際はそれとは全く関係なく、あくまで安全のため。増え続ける参加者、その中で事故を防止するために、警察の指導も考慮しながら導入されたシステムである。

 確かにクジ引きシステムは、今のところうまく行っている。トラブルは全くなかったと言えばウソになるが、最大の目的である「安全確保」という点では、それを達成しているのは間違いない。

 だが…このクジ引き導入には、実は安全確保とは別に、もうひとつの目的があったのだ。それは…。

 「参加者の熱を冷ます」

 かつては、門前に来た順にスタート位置を決められる…という暗黙のルールがあった。だがその結果、門前に何日も前からテントを張って泊り込み、炊き出しさえ行う参加者も現れた。クジ引き導入には、そんな状況を一度リセットするための意味もあったのだ。数日前に来ようと、ギリギリに来ようと、前のブロックから走れる可能性は平等になるからだ。

2004年の様子。多くの参加者が場所取りを行っていた

 これにより、門前に泊り込む参加者は姿を消した。だが…参加者の熱は冷めるどころか、さらにヒートアップしてしまっている。それはナゼなのか。

◆クジ引きがひとつの“見せ場”に

 クジ引き導入前、テレビ局は「前年の一番福、今年は?」など、誰か注目の参加者に密着取材する…という特集を組むことが多かった。クジ引きの導入初年、2005年も、数社が同様の企画をしていた。だが各社が密着していた参加者たちが、みーんなクジ引きでハズれてしまったからたまらない。門が開く前に、企画の主役が“福男になれない”ことが確定してしまったからだ。

 これを受けて、2006年からテレビ局の取材方法に大きな変化が現れる。「クジ引きで誰が一番クジを引くのか」がクローズアップされるようになったのである。

 それが顕著に表れたのが2007年。報道陣は参加者のクジ引き会場に集結し、一番を引く瞬間を待ち構えていた。テレビカメラが回っていると、余計なパフォーマンスをしようとする参加者も出てくる。ハズれたものは大声で叫び、当たったものは踊りだす。これによってクジ引きは大きな時間ロスを強いられた。

  そしてついに訪れたその瞬間。一人の男性がクジを引く。「当たり、一番――」。その刹那(せつな)、報道陣が一気にその男性を取り囲んだ。口々に「今の感想を!」とマイクを押し付けた。

 もはやクジ引きどころでは無くなった。さすがにスタッフの一人がブチ切れ。

 「お前ら、ンなとこでインタビューすなアッ!」

 その一喝で、その囲み取材の輪は離れた場所に移動して行ったが、あのままインタビューを続けられていたら…ただでさえ多数の参加者が引いていくクジ引きに、大幅な遅れが出ていたことは確実。報道陣に猛省を促すとともに、こちらも対策を考えなければならない。

 ともあれ、クジ引きは現時点では、安全を確保するためにも必要なシステム。しか別の面では必要以上にクローズアップされてしまい、あらぬ方向へと進み、様々な弊害が出てきているのも事実。クジ引きシステム自体はこの先も続いていくだろうが、実施形態や報道の規制など、何か大きな変化が求められているのかも知れない。