「復興の詩」。
故・河島英五さんが呼びかけ人となり始まった「阪神淡路大震災・復興支援チャリティーコンサート」。彼は生前からこのコンサートを「10年は続けたい」と言い続けていた。
残念ながら英五さんは・・・7回目を目前にこの世を去ってしまった。。。
だが英五さんの没後も、そのご遺族や親交のあったアーティストの手により、このコンサートは引き継がれてきた。
そして今回。
約束の・・・「10回目」。
この日をどれだけ待ち望んだだろうか。一年前の「vol.9」で大きな感動を受けた私は、このグランド・フィナーレが楽しみで楽しみでならなかった。ついに迎えたこの日、「いよいよだ」という期待と、「これで最後」という寂しさが交錯する。
私はお気に入りの「EIGO(英五)」Tシャツに袖を通し、会場の「神戸文化ホール」に向かった。
会場・神戸文化ホール。「復興の詩」の横断幕もこれで見収め…。 |
ホールに着いたのは1時半。開場は2時なのでまだ時間がある。
となりの公園では「復興の詩」の恒例となっている、英五さんのファンに達によるストリート・ライブが行われていた。そう、このコンサートを守ってきたのはスタッフ・出演者だけじゃない。多くの英五さんのファンたちによって守られてきたのだ。
このコンサート恒例となっている、ファンによる直前ライブ。入れ替わりで、次々と英五ナンバーを弾き語る。 |
会場に入ると、去年と同じ、英五さんの手書きの緞帳(どんちょう)が。
また、この場所に来れた。それだけで胸が一杯になってしまった…。
いよいよ「復興の詩」の幕があく。
大きなスクリーンに、生前の河島英五の姿が映し出される。そして流れてきた曲は…「太陽の島」!英五ナンバーの中でも、個人的にお気に入りの一曲。前回は静かな曲で始まったが、今回はノリノリのメロディー。
独特の♪ラララララン、ラララララン…というフレーズが耳に残る曲だ。
「太陽の島」がフェードアウトしていく中、ステージ脇から出てきたのは、司会の「河島あみる」さんと「桂南光」さん。プライベートでも親交が深いというこの二人の、息の合った掛け合いも面白いのだ。
ちょっぴり残念だったのが、前回はこの司会の二人がそれぞれソロで一曲歌ったのだが・・・今回はソロでのステージはなし。今回の参加メンバーを考えると、時間的に無理だったんだろうなあ。南光さんの必死な歌声が聴きたかった気がする(^_^;)。
ステージが始まる前に、今まで参加してきた人たちからのメッセージが映された。
イルカ、ますだおかだ、ラモス、円広志…。
今回はラストステージということもあり、出演希望が殺到したという。そうだよね。「復興の詩」は10年間も続けてきたんだ。・・・震災の時、私はまだ高校生だった。たくさんの人がたくさんの思いを、このステージに込めて来たんだ。私は2回しか参加していないが、「10年間の重み」をひしひしと感じた。
さてこれで“前置き”は終了。本格的に「復興の詩」が始まった。
【第一部】
◆河島翔馬
英五さんの息子…翔馬。前回はラストにのみ出てきた彼が、意外にもトップバッターとして登場。英五さんの「訪ねてもいいかい」を熱唱。
「この一年で、凄く成長した」と紹介されたが、本当にその通りだ、前回は「勢い」だけが先行していた感があったが、歌唱力は格段に上がっているのが解った。
◆堀ちえみ
男性アーティストが多い中で、純アイドル出身(^_^;)の一輪の花。
英五さんの「生まれる前から好きやった」を歌った。意外な選曲だ…。この曲はいわゆる「男が歌う女の歌」。女性がこの曲を歌ったのを初めて聴いた。
英五さんが生前「堀さんに歌って欲しい」と言っていたという。その願いが実現したことになる。
♪生まれる前から 好きやった それは あんただけ…
一回ぐらい、こんなコト言ってもらいたいもんだ(-_-)。
◆押尾コータロー
「有名なギター奏者」ということで名前は知っていたが、顔を見るのも演奏を聴くのも初めて。印象は…「普通のにーちゃん」(^_^;)。飾らない雰囲気が超好印象。
かつて、英五さんの経営するライブハウスで下積みしていたという。
曲目は英五さんの曲「カヌーに乗って」と「ボレロ」。「カヌーに乗って」は自らのボーカルで歌い上げ、「ボレロ」はギター技術をフルに使いこなして弾き上げた。その繊細な弦さばきに脱帽。
◆三代目魚武濱田成夫
…。この人は何者なんだろう。スキンヘッドに、まるで暴走族の特攻服のような井出達で登場。しかし、話し方は低姿勢そのもの。南光さんの「見た目と中身がこれほどちゃう人、そう居まへんで」という言葉
もうなづける。
あとで知ったのだが、この人は英五さんが亡くなったあとの特番のナレーションなども勤めていた。今だ謎な人だが、英五さんを心から慕っている人なことは確かなようだ。
英五さんのデビュー曲「何かいいことないかな」を絶叫。うん、間違いなく「勢い」で勝負するタイプの人なようだ。
◆河島ファミリー
司会の河島あみる、アナム&マキ、河島翔馬が登場。
「百年たったら」…。この曲は英五さんが生前、コンサートの時に、会場の人に「みんなで歌おう」と呼びかけていた曲。
「百年たったら天国で会おうよ 百年たったらも一度会おうよ」
そのサビを何度か会場に練習を呼びかけ、本番開始!サビの部分では、ホールが地鳴りのような声に包まれた。
このコンサートは数多くのアーティストが参加しており、お客さんはそれぞれお目当ての出演者がいるはず。そのため、誰かの曲を会場全体で大合唱…というのは難しい。しかしこの曲のようにサビが簡単で、覚え易い曲なら別だ。
このコンサートは数多くのアーティストが参加しており、お客さんはそれぞれお目当ての出演者がいるはず。そのはずの会場が、この曲でひとつになった気がする。
◆南こうせつ
ここで特別ゲスト登場!ポスターにも載っていなかった、南こうせつが登場。
ずっとウワサだった「特別ゲスト」…その正体は南こうせつ。
前回のこのコンサートにも参加していた彼が、応援に駆けつけたのだ。
時間の関係でトークもそこそこに、優しい歌声を披露する。
一曲目は「風の人、火の人、山の人」。全回も歌った、作曲・河島英五、作詞・南こうせつの曲である。残念だったのは、その「英五さんとの合作」という告知が無かったこと。歌う前に言って欲しかったな…。
二曲目は・・・出ました!伝家の宝刀「神田川」!日本歌謡史上に残る名作を生歌で…。これは凄い貴重な体験だぞ。
ここで前半終了。しばしの休憩に入る。
休憩時間中、恒例のチャリティーオークションが行われた。なんか買いたいと思っていたが…どの商品も、コアなファンに万円単位に引き上げられ撤退(T_T)。
英五さん直筆サイン入りのメモ帳、欲しかったなあ…。
【第二部】
休憩が終わり、まずは第一部と同じく、過去の参加者からのメッセージが。
嘉門達夫、マナ・カナ、宗次郎、笑福亭鶴瓶。
宗次郎の顔が映し出された時、会場が「誰やった?誰やったっっけ?」とざわつく…。最後の最後に「オカリナ奏者の宗次郎でした」と言った瞬間、会場が「あ〜〜!」と相槌を打ったのには笑えた。時々いるんだよなあ「ド忘れ有名人」(笑)。
そんなこんなで、第二部のスタートである。
◆アナム&マキ
完全に“河島英五の娘”という形容詞から脱却した感のあるデュオ。アナムの極端な高音と、マキの極端な低音。歌声がとにかく個性的で、不思議な世界観を持っている。
曲は英五さんの「祖父の島」と、オリジナル新曲「ピカピカ光る」。「ピカピカ〜」のほうは、どうやら反戦の思いを込めた曲らしい。
ホールの反響のせいだろうか、ちょっと歌詞が聞きとり難かった…。じっくり聴いてみたいのでCD買おうかな。
◆原田伸朗
今ではバラエティーの司会などで人気の原田さんだが、かつては清水国明との「あのねのね」というグループで、一世を風靡した「歌手」である。
曲は英五さんの「青春旅情」。う〜、私が最も好きな一曲である。
♪雨の日も 風の日も 揺れる汽車の中で
思い出と見知らぬ夢との 間を行ったり来たり…。
旅好きな私は、列車での長旅の時、決まって口ずさむこの曲。前奏が流れてきただけで、流れる風景が見えてくるようだ。
歌い始めると…さすがにうまい。声に温かさがあるんだなあ。
◆伊原剛志
私はテレビドラマには疎いので良く知らない…。で、登場したのはヒトコトで言うと「イケメン俳優」。司会の南光さんが「俺、あの人に勝てるとこがひとつも無いわ!」と愚痴ったところに、すかさずあみるさんが「デコ(額)の狭さなら勝ってます!」とのツッコミ。最高。
伊原さんの歌うのは、英五さんの「生きてりゃいいさ」。
そしていよいよ、今回の目玉〜の登場。
もはや告知されているアーティストで、まだ出てきていないのはひとり…。
にわかに、会場のギャルたちがザワめきたつ。
黄色い声援の中、舞台に現れたのは…そう、山崎まさよしである。
◆山崎まさよし
「まさやーーーん!」「サングラス取ってーーー!!」
そんなギャルたちを軽く受け流し、ギターを弾き始めた。
一曲目は彼の オリジナル曲・・・。「名前のない鳥」という曲らしい。
続いて二曲目。
う?どっかで聴いたことのあるメロディー…。あ、これって「セロリ」じゃん。
なんか後方から異様なオーラを感じ、恐る恐る振り返る…と…。踊ってる。ギャルたちが曲に合わせ、ワカメのごとくゆらゆらと!まさよしファン恐るべし。
で、その曲の終わりごろに、後ろから忍び寄る影が!
あの奇妙な動きは(^_^;)!アナム&マキじゃん。
「ど〜してもまさよしさんとご一緒したい曲があります。
父の曲なんですけど、自分たちの曲のように歌いまくっている曲です」
お!あれか?アレなのか?
「月の花まつり」。英五さんの曲の中でも、大好きな一曲だ。
何もかもが生まれ変わり、まためぐり合う。そんな「輪廻転生」のメッセージが込められた、ちょっとミステリアスな曲だ。
アナム&マキ、そして山崎まさよし。個性が強烈な三人の競演。これはそう見れねーぞ。
「月の花まつり」演奏終了後、余興が。今年で結成10周年を迎えるというアナム&マキにお祝いのケーキ登場。山崎まさよしに、ケーキをひとくち食べさせてもらうという小芝居つき。会場のまさよしファンの思いはいくばくばかりか(^_^;)。
そしてその流れのまま、本日の出演者がぞろぞろと出てきた。出演者だけじゃない。お揃いのTシャツを来た若者たち・・・。復興の詩実行委員会・青年の部=「FJS」の皆さんである。
「復興の詩」は全てボランティアで開催されている。出演アーティストはもちろん、スタッフ、会場代に至るまで全て「無償」なのだ。どうしても注目は出演者に集まりがちだが、それを支えているのは、裏方の若いスタッフたちなのだ。
ここで、優しいメロディーが流れてくる。「復興の詩」のテーマ曲、英五さんの「森へ帰ろう」だ。そしてスクリーンに映し出される、在りし日の河島英五。
♪森へ帰ろう かけがえのない命のために
森へ帰ろう 傷ついた君を守るために...
昨年もラストでこの曲を歌った。昨年も感動したが、今年はその比じゃない。なんてったって「これで最後」なのだ。英五さんが作り上げてきた、この素晴らしいコンサートが。
色んな思いが胸に去来し、その思いは涙となって溢れ出した。
間奏の時、私はスクリーンの映像に向かって、大声で叫んでいた。
「英五ーーーーーッ!!」
その叫びが引き金となり、もう、涙がとめどなく流れ出した。
後半は歌えなかった。。。嗚咽することしかできなかった。。。
そして、これでとうとう復興の詩も幕を下ろす…、
はずがない!
鳴りやまぬ拍手。おざなりじゃない!会場の人全てが、アンコールを求めていた。
まだだ!まだ歌いた足りない!感じ足りない!
その拍手の中、まず出てきたのは谷和彦さん。耳に手を当て、ジェスチャーでさらなる拍手を促す。それに乗せられて、会場の拍手も大きくなってゆく!
…。
やがて、ひとりの男が歩いてきた。
河島翔馬だ。
正直、会場につめかけている山崎まさよしファンは「まさやんは〜?」と思ったかも知れない。でも、「復興の詩」というコンサートを理解している人は解っている。
このコンサートを締める奴は、彼以外にあり得ないことを。
翔馬が語り初める。
自身尾のこと。コンサートのこと。そして…父・英五のこと。
美しい曲が流れてきた。
「晩秋」。
♪幾度も季節は巡って 全てが風に流れても
あなたが生きて残した温もり ・・・決して消えない・・・
歌詞に、父の姿を重ね合わせて歌っているのか。言葉をかみしめるように歌う翔馬。
…静かに始まり、静かに曲が終わった。
これで終わりじゃない!まだまだ続くぞ!
続いて「元気出してゆこう」!
♪元気出してゆこう 声かけあってゆこう
サムライでゆこう 日本男児でゆこう
曲が終わっても、会場のテンションは下がるどころか、うなぎ上りだ!
「まだ歌い足りないか〜〜!!」
そんな翔馬の呼びかけに、会場がすぐさま反応した。
「イエーーーーイ!!」
何度も、何度も、最後のフレーズが繰り返された。
♪元気出してゆこう 声かけあってゆこう
サムライでゆこう 日本男児でゆこう
名残を惜しむように…。
このコンサートが始まってからの、10年という年月を思い出すように…。
翔馬が叫んだ。
「そろそろ、みんなを呼んでみようか〜〜〜!!」
その呼びかけで、ステージ脇から出演者がゾロゾロと出てきた!
もっと「まさや〜〜ん」の声が聞こえるかと思ったがそうでもない。きっと今・・・観客のほとんどは「お目当てアーティスト」というちっぽけな枠を超え、会場の盛り上がりに酔っているんだ。そしてもちろん、私もその「酔っている」一人だった。
豪華なメンバーで、さらに何度もこの歌詞が繰り返される。
♪元気出してゆこう 声かけあってゆこう
サムライでゆこう 日本男児でゆこう
このまま、コンサートの終わりが来ないように、本当に願った。
…。
いつまでも続いて欲しいと思う時間も、必ず終わりを迎えねばならない。
南光さんが言った。
「では本当に最後の最後に、“あの曲”をみんなで歌いたいと思います!」
コンサートの最後に合唱するのは、この曲になる事は解っていた。
「『旧友再会』!英五さん、お願いします!」
旧友再会。英五さんの遺作であり、心あたたまる傑作…。
舞台では、河島あみるさんが号泣していた。英五さんの死後は彼女が先頭に立ち、このコンサートを守ってきたのだという。本当にお疲れ様でした…。
♪今日はほんとに笑った 腹の底から笑った
わざわざここまで訪ねてくれて 今日はどうもありがとう
「復興の詩」のグランド・フィナーレ。私はこの時間を、一生忘れることが無いだろう。
『旧友再会』が終わり、出演者も全て去ったあと・・・。何故かスクリーンが下りてきた。映し出されたのは河島英五…!と!流れてきたのは『てんびんばかり』。
…。
正直、最後の『てんびんばかり』の映像は、無かったほうが良かったかも…?はっきり言って暗い曲だし、ちょっと長い・・・。『旧友再会』で完全に締めにするか、映像を流すならもっと明るい曲、具体的には「どんまいどんまい」、「旅的途上」あたりにしたほうが良かったのでは…。
最後の最後だけ、ちょっぴり疑問が残った。
※これは後日に「主催者側」の人から聞いた話です。(反転)
最後の「てんびんばかり」は、“最後の一曲”という位置付けではなく“お帰りBGM”としての位置付けだったとのこと。つまり実質的なコンサートは、『旧友再会』で終了だったのだ。
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「復興の詩」は終わった。
残念な気持ちはもちろんある。来年もできれば、あの感動を味わいたい…。
しかし、約束の10回でスッパリとやめるのが、最もいい道だとも思う。
この「復興の詩」は、元々はこんなに大きなコンサートでは無かった。
特に開始直後の数回は、出演者のほとんどが、無名のストリート・ミュージシャン。そのためにチケットもなかなか売れず、英五さんが各地を飛びまわり、路上で手売りしていたという。
またチケット代も、コンサートでは破格値ともいえる「3000円」。これは英五さんの「多くの人、特に若い世代の人に来て欲しい」という願いからだった。
しかし…。
回をが進むにつれ、出演者は豪華に。それにつれて、チケットもあっという間に売れてしまうようになった。
今回など、チケット発売日と同時に完売。あからさまな横流し目的が多く、チケットショップにはひとケタ加えられた値のチケットが並んでいた。…「復興の詩」は、大きくなりすぎてはならないコンサートだったように思う。しかし、いつの間にかここまで大きくなってしまった。知らないところで、英五さんの思いとは違った方向に、コンサートが進んでいってしまっていたのだ。
それゆえ、「復興の詩」は、この「約束の10回目」で終焉することが、一番いい道だと思うのだ。
次の日の朝、私は駅でスポーツ新聞を買い漁った。
予想通り各スポーツ紙には、「復興の詩」の最後の様子を伝える記事が掲載されていた。
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「復興の詩」
号泣フィナーレ
日刊スポーツ |
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「復興の詩」
約束のファイナル
スポーツニッポン |
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河島英五さん
震災復興ライブ終えん
デイリースポーツ
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河島あみる、妊娠3ヶ月
「復興の詩」ラストイヤーに
サンケイスポーツ |
記事を読んで、改めて「おわっちゃったんだ」ということを認識した。
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さて、こっからはちょっとナイショの話…。
私は仕事で、新聞の記事をweb上にUPする…ということをしている。当然、次の日に「復興の詩」の記事も扱った。
そこで私は、ふと思い立ったのだ。
いつもは、普通に記事を取り込み、そのままUPするところなのだが…。
UPする際、記事の最後に・・・コッソリ私が一行、付け加えたのである。
この一行に、私の思いの全てを込めた。
記事を読んだ人の中で、最後の一行が“あとから加えられた”ものと気づく人はいるだろうか。たぶんほとんど居ないだろうなあ。
それでもいいさ。
きっとこの思い、天国の英五さんに届いてくれる。
英五、心から…「ありがとう」。
平成16年4月25日、「復興の詩」、終焉。
(平成16年5月9日) |